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2025.07.07に開催された地域版人的資本経営コンソーシアム(福岡会場)のレポートを公開します

2025年7月7日、福岡で地域版人的資本経営コンソーシアムが開催されました。今回のテーマは「人手不足や事業構造の転換に向けた従業員の学び直し」。株式会社日立製作所 執行役常務 Deputy CHRO 瀧本晋氏、小平株式会社 代表取締役 小平勘太氏が登壇者として事例を紹介しました。その後、人的資本経営コンソーシアム会長 伊藤邦雄氏(一橋大学名誉教授)がモデレーターを務める中で、登壇者とのパネルディスカッションや参加企業による意見交換も行われ、参加者同士が知見を深め合う貴重な場となりました。



「最も大事な“人”の価値をどう顕在化させるか」人的資本経営コンソーシアム会長 伊藤氏

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人的資本経営コンソーシアム会長 伊藤氏

冒頭の開会挨拶で伊藤邦雄会長は、「人的資本経営のようなムーブメントは、どうしても東京や上場企業、大企業を意識した形になりがち」と指摘した。「それでは、人的資本経営のムーブメントが起きても結局、点で終わってしまう。点と点を繋いで線とし、さらに面として展開することで、この人的資本経営を浸透させていく必要がある」と、地域での人的資本経営促進の意義を述べました。
また、「AIがいくら進化しても、人が主体であることに変わりはない。最も大事な“人”、つまり人的資本の価値をどう顕在化させるか。今日は皆さんと率直な意見交換をしたい。」と参加者に語りかけました。



「人材は“資源”ではなく“資本”」経済産業省 川久保氏

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経済産業省 産業人材課 課長補佐 川久保氏

経済産業省 川久保俊氏は、従業員の学び直し(リスキリング)に向けた取組について、中小企業の従業員に関する調査結果と共に現状を説明しました。「中小企業においてリスキリングに取り組む社員の8割は、“現在の仕事に活かしたい”という目的である。従業員にリスキリングを進めることで実際に離職率が上がった企業は1%未満にとどまる」とし、リスキリングに対するよくある誤解について解説。また、リスキリングに向けた会社の支援においては「リスキリングに向けた意欲の引き出し」や「リスキリングに必要な時間・費用の確保」といった観点が重要であると指摘しました。
そして川久保氏は締めくくりとして、「人材は“資源”ではなく“資本”。その価値を最大限引き出すことで、企業価値を高めるのが人的資本経営」と語り、各企業における今後の取組への前向きな姿勢を期待しました。



「経営戦略を支える“人材”戦略と社員との対話」株式会社日立製作所 執行役常務 Deputy CHRO 瀧本氏

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株式会社日立製作所 執行役常務 Deputy CHRO 瀧本氏

株式会社日立製作所 瀧本晋氏は、2009年の経営危機を契機に、経営戦略として、社会イノベーション事業とグローバル展開に大きく舵を切り、その変革を支えるために人事施策の一つとして「データで価値を生む提案ができる“人材”」の育成に注力してきたと語り、その具体的な取組を紹介しました。同社では事業幹部と対話を行い、業務プロセスに沿って12職種の「デジタル人材」を定義し、座学と実践を組み合わせた研修体系を構築した結果、2024年度には目標の約9.7万人に対し、10.7万人のデジタル人材の育成につなげたと報告しました。
一方で、「集中的な育成を行っても、現場に戻った人材の活躍が難しい状況があった」という、同社が直面する課題についても紹介。その打開策として、日立のデジタルイノベーション「Lumada(ルマーダ)」の活用を担うCLBO(Chief Lumada Business Officer)を各事業部門に配置し、各事業体における目標設定と推進、また理解浸透やマインド・組織文化の醸成を強化している取り組みを説明しました。また、育成施策だけにフォーカスするのでなく、さまざまな施策を有機的に連携させることの重要性を紹介しました。
また、まとめにおいては「組織は人」であり、人材施策の推進に当たっては「上司と部下がとにかく会話して語って、会社の未来を一緒に共有し、それを浸透させていくことに尽きる」と、地道な対話こそが変革を支える要であると語りました。



「老舗企業の組織変革とリスキリングへの取組」株式会社 代表取締役社長 小平氏

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株式会社 代表取締役社長 小平氏

創業1912年、鹿児島に本社を構える総合商社・小平株式会社の四代目となる小平勘太氏は、「変わらないことが最大のリスクだった」と、2021年から本格的な組織改革に乗り出した背景を明かしました。
最初に着手したのは、ミッション・ビジョン・バリューの再定義。全社員を巻き込んだVision Meetingで価値観を共有し、「バリューは温泉のマナーのようなもの。みんなが気持ちよく働くための約束ごと」として職場への浸透を図ったといいます。
制度面では、等級制度・評価制度を刷新し、役割やスキルを明確化。社員が自発的にリスキリングへ取り組める環境を整えました。実際に、撤退事業から異動した社員が社内制度を通じてエンジニアに転身した事例も紹介されました。
「地域で人を育てる時代が来ている」と語る小平氏は、教育スタートアップと連携した地域リスキリングにも参加。こうした改革の成果として、過去3年間で22名以上の採用を実現し、過去最高益も達成したと報告しました。



参加者と登壇者が交流を深めた質疑応答&意見交換

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質疑応答セッションでは、伊藤会長がモデレーターを務め、瀧本氏・小平氏が再登壇。参加企業からのさまざまな課題に対して、登壇者が実体験を交えて回答しました。「組織改革は結果がすぐには見えないので、継続が難しい」という質問に対しては、小平氏が「問題を発見し、組織の状態を数字で可視化することが重要。そうすると経営陣に問題解決への焦りとモチベーションが生まれてくる」といった具体的なアドバイスを送っていました。
その後、テーブルごとに分かれて活発な意見交換が行われ、最後は伊藤会長の全体総括で福岡会場での全プログラムは終了しました。

人材育成とリスキリングの具体的なアクションが共有された今回の福岡会場。今後も地域企業が変革のヒントと出会える場として、人的資本経営コンソーシアムは各地での開催を予定しています。次回は仙台(8月)、名古屋(9月)で開催予定です。