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2025.05.21に開催された地域版人的資本経営コンソーシアム(広島)のレポートを公開します
2025年5月21日に、広島で開催された地域版人的資本経営コンソーシアムのレポートを公開します。「人手不足の解消に向けた人的資本経営」をテーマに、キリンホールディングス株式会社 取締役副社長 CPO 坪井氏、株式会社フジワラテクノアート 代表取締役副社長 藤原氏らが登壇しました。登壇者による事例紹介の後、経営・女性活躍をテーマにしたパネルディスカッションや参加企業による意見交換を実施し、「人的資本経営」について活発な議論が行われました。
「地域企業こそ人材を“資本”として捉えることが重要」中国経済産業局 髙野氏

人的資本経営とは人材を「消費される資源」ではなく、「投資によって価値が伸びる資本」として捉え、企業の価値を中長期的に高めることが重要であることを紹介しました。特に、人口減少や若年層の流出により、地方企業は人材確保と育成が経営の最重要課題になっているため、人材の価値を見える化し、魅力的な職場づくりを進めてほしいと呼びかけました。また、その支援策として、経済産業省が所管する地域企業と経営人材とのマッチング事業や賃上げ促進税制について紹介しました。
「人手不足を解決する、人事制度改革と業務改善の成功事例とは」経済産業省 川久保氏

続いて、経済産業省 川久保氏が現状の人手不足とその対策について紹介しました。具体的には、企業の約6割が人手不足を課題と感じており、特に建設業や宿泊・飲食サービス業では約8割が人手不足というデータを紹介しました。その打開策として、賃上げや働きやすい職場環境づくりを進めることで、人手不足の改善に成功している中堅・中小企業の事例について説明しました。
「広島県が先導する、人的資本経営の実践支援」広島県商工労働局 藤井氏

広島県商工労働局の藤井氏は、広島県が全国に先駆けて展開する、人的資本経営促進のための施策について紹介しました。同県は2024年度に「人的資本経営促進課」を新設し、リスキリング・働き方改革・女性活躍などに関する取組について、包括的に支援する体制を築いています。人的資本経営を実践する取組として、県内企業向けに人的資本情報を手間なく、簡単に開示できる、広島県人的資本経営開示ツールを開発し提供。これは、企業が抱える「何から始めればよいか分からない」「効果が見えにくい」などの課題に対応したもので、指標の体系化や作成フォーマットの提供により、情報開示へのハードルを下げることを目的としています。さらに今年度より、「人的資本経営ひろしまアワード」の開催を予定しており、積極的に情報開示に取り組む企業を表彰するなど、引き続き県内企業の人的資本経営を促進していく方針を示しました。
「企業の成長には、専門性と多様性を兼ね備えた人材育成がカギ」キリンホールディングス株式会社 取締役副社長 CPO 坪井氏

キリンホールディングスの坪井純子氏は、自社における経営戦略と人材戦略の結びつきを解説しました。同社は事業ポートフォリオの変化に応じて人材のリスキリングを実施。具体的には、医薬事業参入時に、ビールを専門とする営業職200名を医薬営業へ転換した事例を紹介しました。また、キリンの人材戦略は「人間性の尊重」を基に、従業員を会社の対等なパートナーと捉え、従業員が自律的にキャリアを形成し、会社はその成長を支援することを紹介しました。さらに社会課題の解決と経済的価値を両立するCSV(Creating Shared Value)経営において、「企業の成長には、高度な専門性と多様な経験・価値観を合わせ持つ人材が育ち、価値創造に繋がることが不可欠である」と強調しました
「専業主婦だった母が社長に。中小企業のカギとなる女性活躍の推進」株式会社フジワラテクノアート 代表取締役副社長 藤原氏

醸造機器メーカーである株式会社フジワラテクノアートの藤原氏は、創業者である父の急逝を機に、専業主婦であった母が社長に就任しました。同氏も育児と経営を両立し「男性経営者と同じような働き方ができない苦しみ」を感じながら改革を推進し、多様性を重視した組織づくりを行ってきました。特に、女性の管理職比率向上や賃金格差是正を進め、女性社員の出産後の継続就業率100%を17年間維持しています。ほかにも、同社では、2050年に向けたビジョンの全社員との共有や社内食堂で自社の機械で作られた味噌・醤油を使った食事の提供、社員ごとに作成する5カ年の成長プラン、マネジメント層への研修などの取組も実施してきました。直近の5年間で新卒定着率100%を達成したことなど、人材の獲得・定着の成果も語りました。
「企業理念を浸透させるには」質疑応答&ワークショップ


各講義後の質疑応答では、参加者からは「自社の企業理念が社員に浸透していない。他社ではどのように企業理念を浸透させているのか」と質問が挙がりました。
株式会社フジワラテクノアートの藤原氏からは、同社が2018年に2050年ビジョンを策定した際「組織の変化への不安からベテラン社員から強い反発を受けた」経験を紹介。ベテラン社員と丁寧な対話を重ね、同時に、若手社員向けのワークショップの実施により、徐々に理解が深まっていったことが語られました。
人的資本経営コンソーシアムでは、2024年12月から第3期の活動として、地域の中堅・中小企業での人的資本経営の推進に向けて、地域版人的資本経営コンソーシアムを計画しています。今回の広島会場を皮切りに、今後福岡(7月)、仙台(8月)、名古屋(9月)でも開催予定です。